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第13話 騎士の兄弟(1)

Auteur: 酔夫人
last update Date de publication: 2026-05-25 11:01:23

複数の足音が近づいてきた。

身構えるサラリアの視線の先で扉がゆっくりと開く。入ってきたのは四人の男たちだった。

前に二人、後ろに二人。 自然と立ち位置に上下関係が見える。 後ろの二人は護衛のように前二人に従っていた。

(大袈裟ね)

飛んで逃げる翼もない人族の、しかも非力な女一人に対して竜族の屈強な男が四人もいる。

サラリアは皮肉げに口元を緩めた。

.

「オーレリウス・ウィンドスケイルです。ご同行ください」

前に立つ二人のうちの一人が胸へ手を当てて敬礼し、丁寧に名乗った上で頭を下げた。

サラリアは驚いた。

(いま『ウィンドスケイル』と……)

ウィンドスケイルの名にサラリアは覚えがあった。

ドラコニアの貴族名鑑の、ドラコニス王家の次にあった名前。ウィンドスケイル公爵家。

サリンドラ家と同様に建国王ドラコニスを支えた騎士の名を持つ、王の剣という名を持つ空戦を得意とする武門の一族。

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  • 番の心がわり   第13話 騎士の兄弟(1)

    複数の足音が近づいてきた。身構えるサラリアの視線の先で扉がゆっくりと開く。入ってきたのは四人の男たちだった。前に二人、後ろに二人。 自然と立ち位置に上下関係が見える。 後ろの二人は護衛のように前二人に従っていた。(大袈裟ね)飛んで逃げる翼もない人族の、しかも非力な女一人に対して竜族の屈強な男が四人もいる。サラリアは皮肉げに口元を緩めた。.「オーレリウス・ウィンドスケイルです。ご同行ください」前に立つ二人のうちの一人が胸へ手を当てて敬礼し、丁寧に名乗った上で頭を下げた。サラリアは驚いた。(いま『ウィンドスケイル』と……)ウィンドスケイルの名にサラリアは覚えがあった。ドラコニアの貴族名鑑の、ドラコニス王家の次にあった名前。ウィンドスケイル公爵家。サリンドラ家と同様に建国王ドラコニスを支えた騎士の名を持つ、王の剣という名を持つ空戦を得意とする武門の一族。竜族の中でも位が高い一族の男が礼を尽くす対応をした。食事を運ぶ侍女でさえ蔑むような態度をとった。だからオーレリウスと名乗った男の態度にサラリアは戸惑う。サラリアの視線を感じたのかオーレリウスは柔らかく微笑む。(ご当主の年齢とは合わない…… 確か息子が二人いると書かれていたはず)オーレリウスは兄弟の男どちらかだろうとサラリアが考えていると、オーレリウスの隣の男が苛立ったように怒鳴った。「オーレリウス、罪人なんぞに頭を下げるな!」大きな声だった。(単純そう……考えていることが全部口に出るタイプ)オーレリウスを名で呼んだことと叱責できる立場。オーレリウスがウィンドスケイル家の次男で、こちらの男が兄だとサラリアは推察した。(オーレリウス卿よりも騎士っぽいわ)兄弟の髪色は揃いの金茶色だが、オーレリウスが長く伸ばして一つに束ねているのに対して兄のほうは短く刈り込んでいる

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    「サラ、何をした?」ラーシュの声は静かで、そこにはラーシュが常にサラリアへ向けていた熱も甘さもなかった。あれほど優しく自分を見つめていた藍色の瞳が今は罪人を見定めるように揺れている。そんな氷のように冷たい目をサラリアは初めて向けられた。その視線にサラリアは一瞬だけ息を詰まらせた。本能的に恐怖を感じると同時に深く傷ついた。愛されていた相手から向けられる疑念ほど人を傷つけるものはない。しかしサラリアは後宮で学んでいた。誰も助けてくれない場所では、自分だけは自分を信じなければならない。ここで折れたら終わりだとサラリアは知っていたから、サラリアは震えそうになる指先を握り締めまっすぐラーシュを見返した。「何もしていません」出た声は思ったより冷静で、サラリア自身が驚いた。でもサラリアは本当に何もしていない。何かをしたのはシーラたちのほうだ。冷たい床へ押し倒された感触をサラリアは覚えている。無理やり押さえつけられた腕の力、血を抜かれる痛み、そして身体の奥へ冷たいものが入ってくる不快感―――すべてをサラリアは覚えている。  『これで私が番よ』意識を失う直前に聞いたシーラのあの声だけは異様に鮮明だった。サラリアは覚えている限りを話した。何をされたか。誰がいたか。どんな薬品の匂いがしたか。シーラが何を言ったのか。感情を押さえて淡々と、途中からは自分でも不思議なくらい冷静に話せていた。泣く必要もない。信じてほしいとラーシュに対して縋る気持ちもどこか薄れていた。たぶんラーシュの一言、人族なんかという言葉で理解してしまったのだ。ラーシュにとって自分はもう無価値。だからサラリアは感情を混ぜることなく事実だけを並べた。ラーシュが信じる信じないは別にして、知らないことのはラーシュに対してフェアではないから話し続けた。説明義務を果たせば全

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    シーラはラーシュの前では可愛らしくて無邪気な姫だった。朗らかに笑い、ラーシュへ甘え、「兄様」と親しげに呼ぶ。幼い頃から大切に守られて育った名門令嬢そのものの彼女は誰が見ても愛らしく、誰からも好かれるような振る舞いをしていた。けれどサラリアには予感があった、シーラは自分を嫌っている。はっきりした根拠があるわけではないから誰にも言えなかったが、後宮という女の園で生きてきたサラリアには憎悪ともいえるその感情が感じ取れた。人は本当に嫌っている相手にほど優しく笑うことがある。そしてその予感は最悪の形で当たった。.その日、ラーシュは王城で開かれる会議へ出席していた。「すぐ戻る」と額への口づけを落として出かけるラーシュを見送ったあと、サラリアはいつものように図書室で本を読んでいた。静かな午後だった。窓の外ではいつも通り竜たちが空を飛び、風は庭で揺れる花の香りを届けてきた。  『シーラ様がいらっしゃいました』だからシーラが突然宮へやってきたときもサラリアは特に警戒しなかった。ラーシュが留守なことを知らずに来たのだろうとしか思わなかった。  『サラリア様に贈り物をお持ちしたのです』シーラはにこやかに笑っていた。彼女の後ろには大きな箱や袋を抱えた者たちが並んでいた。侍女たちかと思ったが纏っている簡素な白い衣からは独特の薬品臭。さらに中には男性の姿もあってサラリアは警戒した。警戒したところでサラリアには何もできなかった。「っ……!」突然腕を掴まれて後ろ手に回され、引き倒されたあとに複数人に押さえ込まれた。「な、何を――!」「ジッとしていなさい」シーラはいつも通り柔らかく微笑んでいたが声は冷え切っていた。サラリアは抵抗したが相手は竜族。力の差が違い過ぎた。「離して」と叫び、足を暴れさせても意味はなかった。彼らは慣れた手つきでサラリアを拘束し衣服を剥

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    ドラコニアに来たばかりの頃の自分を振り返ると、あまりにも非日常的なことに浮かれていたのだと分かる。神話のような風景と「愛している」と言ってくれる美しい男性。自分を大切に抱き締め、欲しいものを与え、笑えば嬉しそうに目を細める優しさも。読書に夢中になれば拗ね、本を閉じれば機嫌を直す可愛らしいところも。毎日のように愛を囁くあの甘い熱も。ラーシュがサラリアに与えてくれたあの全ては、サラリアが彼の番だったからなのだと今ではよく分かっている。.ドラコニアでの生活が長くなると、サラリアには少しずつ現実が見えてきた。 竜族。 誇り高き竜人の国ドラコニア。竜族は優しい種族ではなく排他的で、彼らは自分たちを至高の存在だと思っていた。それ自体は悪いことではないとサラリアは思っている。人族だってそうだ。 自分の国に誇りを持ち、自分の文化を愛する。それは自然な感情であるとサラリアは理解している。(けれど、自分たちを誇ることと他者を見下すことは別だわ)ドラコニアの竜人たちはその境界が曖昧だった。  『人族なんかが竜王陛下の番だなんて』ある日、偶然それを耳にした。使用人たちが仕事の合間にしていた雑談。気が抜けていたのだろうが、だからこそ正直な言葉だった。彼女たちもサラリアが近くにいるとは思わなかったのだろう。その声には露骨な侮蔑が滲んでおり、その音にサラリアは妙に納得してしまった。彼女たちの仕事は正確で丁寧だったが、彼女たちの笑顔の裏には薄い嫌悪があった。それに気づいても何も思わなかったのは、地上の後宮で見慣れていたものだったから。ただ嫌悪の意味ははき違えていた。彼女たちの竜王ラーシュに対する敬愛と思慕から、ぽっと出のサラリアにラーシュを奪われたという嫉妬めいた感情だとサラリアは思っていた。それもあるかもしれないが、根底は違った。それを教えてくれたのは「なんか」という言葉。そこに込められているのは明確な蔑み―――人族なんかが。

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